親知らず抜歯のデメリットとは?痛み・腫れ・仕事への影響を解説

東京都大森駅徒歩50秒の歯医者・歯科「おおもり北口歯科」です。

親知らずの抜歯は、多くの方が一度は検討する歯科治療の一つではないでしょうか。特に「痛みはどれくらい続くのか」「顔が腫れて仕事に支障が出ないか」といった不安は尽きないものです。確かに親知らずの抜歯には、痛みや腫れ、日常生活への影響、さらには神経麻痺のようなリスクも伴うことがあります。しかし、これらのデメリットやリスクを事前に正しく理解し、適切な準備と対策を行うことで、不安を大きく軽減し、納得して治療に臨むことが可能です。

この記事では、親知らずの抜歯に伴う具体的なデメリットから、抜歯がもたらすメリット、そしてご自身の親知らずを抜歯すべきかどうかの判断基準、さらには実際の治療の流れや費用まで、抜歯を検討中の方が知っておくべき情報を網羅的に解説します。この記事を通じて、親知らずの抜歯に関する正しい知識を身につけ、安心して治療を選択するための一助となれば幸いです。

目次

「親知らずの抜歯」に不安はありませんか?

歯科医師から親知らずの抜歯を勧められたものの、なかなか決断できずにいるという方もいらっしゃるかもしれません。特に、インターネットや友人からの話で見聞きする抜歯後の体験談は、痛そう、大変そうといったネガティブなイメージを抱かせることがあります。

実際に抜歯を前にすると、「抜歯後の痛みがどれくらい続くのだろうか」「顔はどの程度腫れるのか、いつ引くのか」「仕事は何日休めばいいのか」「もし神経麻痺のような後遺症が起きたらどうしよう」といった具体的な不安や疑問が次々と頭をよぎるものです。忙しい日々の中で、治療のためにまとまった時間を確保したり、体調不良に悩まされたりすることは避けたいと考えるのは自然なことでしょう。

こうした漠然とした不安を解消するためには、まず親知らずの抜歯に伴うデメリットやリスクを具体的に把握することが大切です。知ることで対策を立てたり、歯科医師と相談する際の具体的な質問ができるようになります。次のセクションからは、親知らず抜歯の具体的なデメリットについて詳しく解説していきますので、ご自身の不安と照らし合わせながら読み進めてみてください。

親知らず抜歯の主なデメリット【痛み・腫れ・リスク】

親知らずの抜歯には、いくつかの代表的なデメリットが伴います。具体的には、抜歯後の「痛みや腫れ」が生じることが挙げられ、これが仕事や日常生活に影響を及ぼす可能性があります。また、まれではありますが「神経麻痺などの合併症リスク」や「ドライソケットのような術後のトラブル」も考慮すべき点です。さらに、抜歯することで「将来の治療選択肢」がなくなる可能性も指摘されています。これらのデメリットについて、これからそれぞれの項目で詳しく解説していきます。

抜歯後の痛みや腫れ

親知らずの抜歯において、多くの患者様が最も心配されるのは、治療後の「痛み」と「腫れ」ではないでしょうか。これらは、親知らずを抜歯する際に、歯茎や周りの骨に外科的な処置を加えることで生じる、体へのごく自然な反応です。特に、下顎の親知らずや、骨の中に完全に埋まっている「埋伏歯(まいふくし)」の抜歯では、歯を分割したり、周囲の骨を削ったりする必要があるため、周囲の組織への侵襲が大きくなり、痛みや腫れが強く出やすい傾向にあります。

しかし、こうした症状の程度や期間には個人差があり、一概に「これくらい」と断言することはできません。これから、抜歯後の痛みがいつ頃ピークを迎え、どのくらいの期間続くのか、また腫れはどの程度で、どれくらいの日数で引いていくのかについて、具体的な目安を詳しくご説明します。これらの情報を事前に知ることで、抜歯に対する不安を軽減し、心構えをしていただければ幸いです。

痛みのピークと期間の目安

抜歯後の痛みは、麻酔が完全に切れる抜歯後2~3時間後から徐々に現れ始めます。痛みのピークは抜歯した当日中から翌日にかけて訪れることが多く、この時期が最も強い痛みを感じやすいでしょう。その後、痛みは徐々に和らぎ、通常は2~3日で落ち着きます。個人差はありますが、長くても1週間程度でほとんど痛みを感じなくなるケースが一般的です。

歯科医院では、抜歯後の痛みに備えて、炎症を抑える作用のある痛み止めを処方します。この痛み止めを歯科医師の指示通りに適切に服用することで、日常生活に支障をきたすほどの強い痛みは十分にコントロールできることがほとんどです。無理に我慢せず、痛みが気になる場合は遠慮なく服用してください。また、痛み止めは服用してから効果が現れるまでに時間がかかるため、麻酔が切れるタイミングを考慮して早めに服用することも有効です。

腫れの程度と引くまでの日数

親知らずを抜歯した後の腫れは、痛みと同様に個人差が大きい症状ですが、おおよその目安を知っておくことで術後の計画を立てやすくなります。腫れのピークは、抜歯後2~3日目(約48~72時間後)に現れることが最も多いです。この期間は、頬が大きく腫れてしまい、外見上もはっきりと分かることがあります。特に、下顎の親知らずや、骨を削る必要があった難易度の高い抜歯の場合には、腫れが強く出やすい傾向にあります。

ピークを過ぎると、腫れは徐々に引き始め、およそ1週間から10日ほどかけて、ほとんど目立たない状態に戻っていくのが一般的な経過です。腫れている間は、口を開けにくくなったり、食べ物が噛みにくくなったりすることがありますが、時間の経過とともに改善していきます。腫れの程度が強い場合は、抜歯直後から数日間、濡らしたタオルなどで冷やすと、多少緩和されることがあります。ただし、冷やしすぎは血行不良を招き、治癒を遅らせる可能性もあるため、適度に様子を見ながら行ってください。

仕事や日常生活への影響

親知らずの抜歯は、痛みや腫れを伴うため、仕事や日常生活にさまざまな影響を与える可能性があります。特に、抜歯後の数日間は、口が大きく開けにくくなることがあります。これにより、食事が摂りにくくなったり、人との会話がしづらくなったりすることが考えられます。また、体力を要する仕事や、集中力が必要な業務においては、痛みや不快感がパフォーマンスに影響を及ぼすかもしれません。

このセクションでは、抜歯が仕事や日々の生活にどのような影響をもたらすのか、その全体像をまずご紹介します。具体的な休むべき日数や、控えるべき行動については、後の見出しで詳しく解説しますので、まずはどのような点に注意が必要かをご確認ください。

仕事は何日休むべき?デスクワークと力仕事の違い

親知らずの抜歯後に仕事を休む日数は、その方の職種や抜歯の難易度によって異なります。一般的に、デスクワークの場合、抜歯当日と翌日は安静に過ごすことが推奨されます。可能であれば、1〜2日程度の休暇を取得できると、術後の回復に専念しやすくなります。パソコン作業など集中を要する業務も、痛みが落ち着いてから再開する方が良いでしょう。

一方、接客業や営業職など人との会話が多い仕事、あるいは建設業やインストラクターなど、体を激しく動かす体力仕事の場合、血行が良くなることで痛みや腫れが増したり、出血のリスクが高まったりする可能性があります。そのため、2〜3日以上の休みを検討されることをおすすめします。ご自身の仕事内容や体力的な負担を考慮し、歯科医師と相談しながら、無理のない範囲で休暇を計画することが大切です。

食事・運動・飲酒などの制限

親知らず抜歯後の数日間は、日常生活においていくつかの制限があります。食事に関しては、抜歯当日は麻酔が効いているため、誤って唇や頬を噛んでしまうことがありますので、麻酔が完全に切れるまでは食事を控えるようにしてください。食事を再開する際には、おかゆ、ゼリー、ヨーグルト、スープなど、あまり噛まずに食べられる柔らかいものがおすすめです。辛い香辛料や熱すぎるものなど、刺激の強い食品は避け、抜歯した側とは反対側でゆっくり噛むように工夫しましょう。

運動、飲酒、長時間の入浴など、血行を促進する行為は、痛みや腫れを悪化させたり、再び出血を引き起こしたりする原因となるため、少なくとも抜歯後2〜3日間は控える必要があります。シャワーは問題ありませんが、湯船に長く浸かるのは避けてください。また、喫煙は傷の治りを遅らせるだけでなく、ドライソケットのリスクを高めることが知られていますので、術後しばらくは控えることを強くおすすめします。

神経麻痺などの合併症のリスク

親知らずの抜歯は、多くの場合安全に行われますが,ごくまれに神経麻痺などの合併症のリスクを伴うことがあります。特に、下顎に生えている親知らずの抜歯では、「下歯槽神経麻痺」という合併症が起こる可能性があります。これは、抜歯の際に顎の骨の中を通る神経が一時的または永続的に影響を受けることで生じるものです。発生頻度は低いとされていますが、どのような症状で、なぜ起こりうるのかを事前に理解しておくことは大切です。しかし、過度に不安を抱く必要はありません。事前に精密な検査を行うことで、このようなリスクを最小限に抑える対策が可能です。次の項目では、この下歯槽神経麻痺について詳しくご説明し、リスクを避けるための具体的な方法についても解説します。

下の親知らず抜歯で起こりうる「下歯槽神経麻痺」

下歯槽神経麻痺とは、親知らずの抜歯後に下唇や顎、歯茎などの感覚が鈍くなる、または麻痺する状態を指します。これは、下顎の骨の中を通る「下歯槽神経」という神経と親知らずの根が非常に近い位置にある場合に、抜歯の際に神経が傷ついたり、圧迫されたりすることで起こる可能性があります。具体的には、親知らずが横向きに生えていたり、骨の中に深く埋まっていたりするケースで、神経との距離が近く、抜歯の難易度が高い場合にこのリスクが高まると考えられています。

下歯槽神経麻痺の発生頻度は数パーセント程度とされており、決して高い確率で起こるものではありませんが、ゼロではありません。症状としては、感覚が鈍くなる「知覚麻痺」が主で、通常は痛みがないことが多いです。多くの場合は一時的なもので、数週間から数ヶ月かけて自然に回復していくことがほとんどです。しかし、ごくまれに症状が長引いたり、感覚が完全に回復せずに後遺症として残ってしまったりする可能性も否定できません。そのため、抜歯を検討する際には、このリスクについても理解しておくことが重要です。

リスクを避けるための精密検査の重要性

下歯槽神経麻痺のリスクを最小限に抑えるためには、抜歯前の精密検査が非常に重要です。従来のレントゲン写真では、親知らずと神経の位置関係を二次元的な平面でしか確認できません。そのため、神経が歯の根と重なって見えていても、実際に接触しているのか、それとも手前や奥にずれているのかを正確に判断することが困難な場合があります。

そこで有効なのが、歯科用CTスキャンを用いた検査です。歯科用CTは、患部を三次元的に撮影することで、親知らずの生え方、根の形、そして下歯槽神経との正確な位置関係を詳細に把握することができます。この精密な情報を得ることで、歯科医師は神経損傷のリスクを事前に正確に評価し、患者様一人ひとりに合わせたより安全な抜歯計画を立てることが可能になります。例えば、神経に非常に近いと判断された場合は、無理に親知らず全体を抜歯せず、神経から離れている歯冠部分だけを分割して除去する「歯冠除去術」を選択したり、あるいは抜歯せずに定期的に経過観察するといった、リスクを避けるための具体的な選択肢が提案されます。このように、事前のCT検査は、患者様が安心して治療を受けられるための重要なステップと言えるでしょう。

ドライソケットなど術後のトラブル

親知らずの抜歯後、まれに「ドライソケット」というトラブルが発生することがあります。これは、抜歯した後にできた穴を保護する役割を持つ血の塊(血餅)が、何らかの原因で剥がれてしまい、顎の骨が露出してしまう状態を指します。通常、抜歯後の痛みは徐々に落ち着いていくものですが、ドライソケットの場合は、抜歯後2~3日経ってから激しい痛みが始まるのが特徴です。この痛みは骨が直接刺激されることによるもので、場合によっては耳の方まで響くような強い痛みが続くこともあります。

ドライソケットの原因としては、抜歯後にうがいを強くしすぎたり、抜歯した部位を舌や指で頻繁に触ってしまったりすることが挙げられます。これによって、せっかく形成された血餅が洗い流されたり、物理的に剥がれてしまったりするのです。喫煙も血行不良を招き、治癒を遅らせるためドライソケットのリスクを高めると言われています。そのため、抜歯後の歯科医師からの指示事項、特に「強いうがいを避ける」「患部を触らない」といった注意点を守ることが、ドライソケットの予防には非常に重要になります。

もしドライソケットになってしまった場合は、痛みを我慢せず速やかに歯科医院を受診してください。歯科医院では、患部の洗浄を行い、抗生剤入りの軟膏を塗布したり、再度血餅を形成させる処置を行ったりします。痛みが強い場合には、鎮痛剤も処方されます。適切な処置を受ければ痛みは和らぎ、回復に向かいますが、予防に勝るものはありませんので、抜歯後の注意事項はしっかり守るようにしましょう。

将来の治療(移植など)の選択肢がなくなる

親知らずの抜歯を検討する際、あまり知られていないデメリットとして、将来的な治療の選択肢の一つを失う可能性がある点が挙げられます。これは、健康な親知らずを抜いてしまうことで、「歯の自家移植」という治療のドナー歯としての可能性がなくなる、というものです。

歯の自家移植とは、虫歯や歯周病などで他の奥歯を失ってしまった場合に、代わりに自分の健康な親知らずをその場所へ移植して、噛む機能を回復させる治療法です。ご自身の歯であるため、拒否反応が起こりにくく、インプラントとは異なるアプローチで天然歯に近い感覚で噛めるようになる可能性があります。もちろん、すべてのケースに適用できるわけではなく、親知らずの形態や、移植先の骨の状態など、いくつかの条件がありますが、自分の歯で噛む機能を取り戻せる有効な選択肢の一つです。

しかし、問題のある親知らずを無理に残しておくことで、他の歯に悪影響を与えたり、痛みや腫れを繰り返したりするリスクも考慮しなければなりません。そのため、将来の自家移植の可能性も視野に入れつつ、現在の口腔内の状況や、抜歯しないことによるリスクとメリットを総合的に比較検討し、歯科医師とよく相談して治療方針を決めることが大切です。

デメリットだけじゃない!親知らずを抜歯するメリット

親知らずの抜歯には、確かに痛みや腫れ、合併症のリスクといったデメリットが伴うことは事実です。しかし、それらのデメリットを上回る多くのメリットが存在することも忘れてはなりません。抜歯は、単に目の前の問題を解決するだけでなく、将来的な虫歯や歯周病、歯並びの悪化といった口腔トラブルを未然に防ぐ「予防的な価値」を大いに含んでいます。このセクションでは、抜歯をためらっている方が抱える不安を解消し、抜歯によって得られる具体的な恩恵をご紹介します。虫歯や歯周病リスクの低減、歯並びへの影響の回避、口臭改善など、多岐にわたるメリットを総合的に理解することで、ご自身の状況に合わせた最適な判断ができるようになるでしょう。

虫歯や歯周病のリスクを根本から解消できる

親知らずを抜歯することの最も大きなメリットの一つは、虫歯や歯周病のリスクを根本から軽減できる点にあります。親知らずは、歯列の最も奥に位置するため、歯ブラシが届きにくく、日々のブラッシングで磨き残しが生じやすい場所です。そのため、食べかすやプラークが溜まりやすく、親知らず自体が虫歯になるリスクが非常に高いだけでなく、隣接する健康な歯(第二大臼歯)まで虫歯に巻き込んでしまうケースが少なくありません。また、歯周病菌も繁殖しやすく、歯茎の炎症を引き起こす原因となります。

問題のある親知らずを抜歯することで、これらの汚れが溜まりやすい場所がなくなり、口腔内の清掃性が劇的に向上します。結果として、親知らずだけでなく、隣の歯や周囲の歯茎の健康を守ることができ、口腔内全体の虫歯や歯周病のリスクを根本から解消することにつながります。

歯並びの悪化を防ぐ

親知らずが歯並びに与える悪影響を防げることも、抜歯の重要なメリットです。特に斜めや横向きに生えてくる親知らずは、その成長する力で前方の歯を内側から継続的に押し出すことがあります。この圧力によって、既存の歯並びが乱れたり、矯正治療によって整えた歯並びが後戻りしたりする原因となることがあります。

一度乱れてしまった歯並びを再び整えるためには、長期にわたる矯正治療が必要となり、時間的にも費用的にも大きな負担がかかります。問題のある親知らずを早期に抜歯することで、このような将来的な歯並びの悪化を未然に防ぎ、時間と費用の両面で大きなメリットが得られます。

口臭の改善につながる

親知らずの抜歯は、口臭の改善にも効果が期待できます。親知らずの周りは、構造上ブラッシングが非常に難しく、食べかすや細菌が溜まりやすい環境です。これらの汚れが分解されることで、口臭の原因となる揮発性硫黄化合物(VSC)が発生し、不快な口臭の原因となることがあります。

また、親知らずの周りの歯茎が炎症を起こす「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」を発症すると、膿が排出されて口臭がさらに悪化することがあります。親知らずを抜歯することで、これらの口臭の原因となる汚れの貯留場所や炎症の元を取り除くことができ、清潔な口腔環境を維持しやすくなるため、口臭の改善につながります。

繰り返す痛みや腫れから解放される

問題のある親知らずを抜歯することは、繰り返す不快な痛みや腫れから解放されるという大きなメリットをもたらします。親知らずは、体調が優れない時や疲労が蓄積している時などに、周囲の歯茎が腫れたり痛みが生じたりすることがよくあります。これは、親知らずの周囲に溜まった細菌が原因で炎症を起こす「智歯周囲炎」と呼ばれる症状で、一度炎症が起きると、多くの場合、再発を繰り返してしまいます。

抜歯は、こうした慢性的で繰り返す炎症の根本原因を取り除く治療です。これにより、「いつまた痛むのだろう」という精神的なストレスや、急な痛みで日常生活に支障が出る不安から解放されます。問題のある親知らずを抜歯することで、生活の質(QOL)が向上し、安心して日々の生活を送れるようになるでしょう。

【ケース別】あなたの親知らずは抜くべき?判断基準を解説

親知らずの抜歯を検討する際、「本当に抜くべきなのか」「抜かなくても大丈夫なのか」と迷う方は少なくありません。親知らずの抜歯は、生え方や現在の症状、将来的なリスクなどを総合的に考慮して判断する必要があります。このセクションでは、ご自身の親知らずがどのような状態であれば抜歯を推奨されるのか、あるいは抜かなくても良いとされるのか、具体的な判断基準を解説します。自己判断せずに、まずは歯科医師に相談することが最も重要ですが、ここで得られる知識が、歯科医師との相談に臨む際の予備知識となり、より納得のいく選択をする一助となれば幸いです。

抜歯を推奨するケース

親知らずは必ずしも抜歯が必要なわけではありませんが、以下のような状況では抜歯が強く推奨されます。これらのケースは、現在の口腔内の健康だけでなく、将来的なトラブルを未然に防ぐためにも、積極的な治療が検討されます。

まず、親知らずが斜めや横向きに生えており、隣接する健康な歯(第二大臼歯)を圧迫している場合です。このような生え方をしていると、歯と歯の間に汚れが溜まりやすく、歯ブラシも届きにくいため、虫歯や歯周病のリスクが非常に高まります。また、親知らずが隣の歯を押し続けることで、全体の歯並びが悪化する原因にもなり得ます。

次に、親知らず自体や隣の歯がすでに虫歯になっている場合です。特に、親知らずが原因で隣の歯まで虫歯になってしまうと、健康な歯まで失うことになりかねません。清掃が困難な親知らずは、治療をしても再び虫歯になるリスクが高いため、抜歯が最善の選択となることが多いです。

さらに、何度も歯茎の腫れや痛み(智歯周囲炎)を繰り返している場合も、抜歯が推奨されます。これは、親知らずの周りに細菌が繁殖しやすく、免疫力が低下した際に炎症が起きやすい状態です。この炎症が進行すると、強い痛みや口が開かなくなるなどの症状を引き起こし、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。繰り返す炎症は、抜歯によって根本的に解決することができます。

また、歯並び全体に悪影響を与える可能性がある場合も、抜歯が検討されます。親知らずが前方の歯を押し出すことで、矯正治療で整えた歯並びが乱れたり、新たに歯並びが悪くなったりするリスクがあるためです。

最後に、完全に骨の中に埋まっている親知らずであっても、レントゲンで嚢胞(のうほう)などの病的な影が見られる場合は抜歯が必要です。これは、親知らずの周りに袋状のものができ、顎の骨を溶かしたり、他の歯に悪影響を与えたりする可能性があるためです。

抜かなくても良い・経過観察となるケース

親知らずは必ずしもすべて抜く必要があるわけではありません。以下のようなケースでは、抜歯をせず、定期的な検診で状態を観察していく「経過観察」という選択肢が有効です。

まず、親知らずがまっすぐに生えており、上下の歯と正常に噛み合っている場合です。このような親知らずは、他の奥歯と同様に機能しているため、特に問題がなければ抜歯の必要はありません。

次に、歯ブラシが届き、清掃が問題なくできている場合です。たとえ奥に生えていても、患者さん自身で適切な口腔ケアができていれば、虫歯や歯周病のリスクを抑えることができます。

また、完全に骨の中に埋まっており、今後も問題を起こす可能性が低いと判断される場合も、無理に抜歯する必要はありません。このような親知らずは、レントゲンやCT検査で確認し、病的な所見がなければそのままにしておくことがあります。抜歯に伴うリスク(神経麻痺など)を考慮すると、抜歯しない方が安全なケースもあります。

最後に、高齢の方や、糖尿病や心臓病などの全身疾患をお持ちの方も、抜歯のリスクがメリットを上回ると判断されることがあります。全身状態によっては、抜歯という外科処置が体に大きな負担をかける可能性があるため、歯科医師は患者さんの全身の健康状態を最優先に考えて判断します。これらのケースでは、無理に抜歯せず、定期的なチェックで現状を維持していくことが推奨されます。

親知らず抜歯の流れと費用

親知らずの抜歯は、多くの方が不安を感じる歯科治療の一つかもしれません。どのような手順で進むのか、費用はどのくらいかかるのかなど、具体的な情報が分かると、少しは安心できます。このセクションでは、初診時のカウンセリングから、抜歯当日、そして抜歯後の処置までの一連の流れをステップごとに分かりやすく解説します。さらに、保険適用となる場合の費用目安についても触れ、治療全体の見通しを立てるための情報を提供します。

1. カウンセリングと精密検査(CT撮影など)

親知らずの抜歯を検討する際、まず行われるのがカウンセリングと精密検査です。初診時には、現在の症状、これまで経験したことのある治療、服用中のお薬や全身疾患の有無などについて詳しく問診が行われます。これは、抜歯の安全性や治療計画を立てる上で非常に重要な情報となります。

その後、親知らずの状態を正確に把握するためにレントゲン撮影を行います。レントゲン写真では、親知らずの生え方、根の形、骨の中での位置関係などを二次元的に確認できます。特に、親知らずが神経や他の歯に近接しているなど、リスクが疑われる場合には、より詳細な情報を得るために歯科用CT撮影が行われることがあります。CT撮影では、親知らずと神経、血管との位置関係を三次元的に確認できるため、より安全な抜歯計画を立てるために不可欠です。

これらの検査結果に基づき、歯科医師は患者さま一人ひとりの状況に応じた抜歯の必要性、具体的な抜歯方法、予想されるリスク、治療にかかる期間、費用などについて詳しく説明します。患者さまが十分に理解し、納得した上で治療を選択する「インフォームド・コンセント」が非常に重要となる段階です。

2. 抜歯当日の流れと所要時間

抜歯当日は、まず血圧測定などの体調チェックを行い、全身の状態を確認します。その後、抜歯する部位に局所麻酔を施します。麻酔は痛みを和らげるために非常に重要であり、麻酔が十分に効いていることを確認してから抜歯を開始しますので、治療中に痛みを感じることはほとんどありません。もし麻酔が効きにくいと感じたり、治療中に痛みを感じたりした場合は、すぐに歯科医師に伝えることで、麻酔を追加してもらうなどの対応が可能です。

抜歯にかかる時間は、親知らずの生え方や状態によって大きく異なります。まっすぐに生えていて、比較的容易に抜けるケースであれば、5分から15分程度で抜歯が完了することもあります。しかし、横向きに生えていたり、骨の中に深く埋まっていたりする難易度の高いケースでは、歯を分割したり、周囲の骨を少し削ったりする必要があるため、30分から1時間程度かかる場合もあります。

抜歯が完了した後は、傷口をきれいに洗浄し、止血のために縫合することが一般的です。最後に、清潔なガーゼを数十分間噛んでいただき、しっかりと圧迫止血を行います。これで当日の抜歯処置は終了となります。

3. 抜歯後の注意点と消毒

親知らずの抜歯は、抜歯当日で治療が終わりではありません。抜歯後の適切なアフターケアが、スムーズな回復と合併症の予防に非常に重要です。抜歯後は、歯科医師から処方された抗生剤や痛み止めを指示通りに服用し、患部の感染予防と痛みのコントロールに努めてください。

当日は安静に過ごすことが大切です。特に、血行が促進されるような激しい運動、飲酒、長時間の入浴などは出血や腫れを悪化させる可能性があるため、控えるようにしてください。また、うがいを強くしすぎると、抜歯窩にできた血の塊(血餅)が剥がれてしまい、ドライソケットの原因となることがあります。指示された方法で、優しくうがいをしてください。

通常、抜歯の翌日、あるいは数日後に傷口の状態を確認し、洗浄・消毒のために再受診が必要となります。この際に、何か気になる症状があれば遠慮なく歯科医師に相談しましょう。抜糸が必要な場合は、抜歯後1週間から10日後に行うのが一般的です。

抜歯にかかる費用(保険適用の場合)

親知らずの抜歯にかかる費用は、保険適用となる場合がほとんどです。ただし、親知らずの生え方や抜歯の難易度によって費用は大きく異なります。

例えば、まっすぐに生えていて比較的簡単な抜歯の場合、3割負担の方で1,000円から3,000円程度が自己負担額の目安となることが多いです。一方、歯茎に埋まっていたり、横向きに生えていて骨を削る必要があるような難抜歯(難しい抜歯)の場合、3割負担の方で3,000円から5,000円程度が目安となります。

これらの抜歯費用に加えて、初診料や再診料、レントゲン撮影料、場合によってはCT撮影料、そして処方されるお薬代が別途必要となります。そのため、総額としては数千円から1万円程度を目安に考えておくと良いでしょう。事前に歯科医院で費用の概算を確認しておくことをおすすめします。

親知らず抜歯に関するよくある質問

親知らずの抜歯を検討されている方が抱きやすい疑問や不安について、これまでの解説内容を補足する形で、よくある質問をまとめました。具体的なQ&A形式で、それぞれの疑問を解消できるように分かりやすく説明します。

Q. 抜歯中の痛みはありますか?

通常、親知らずの抜歯中に痛みを感じることはほとんどありません。歯科医院では、治療に入る前に十分な量の局所麻酔を施し、抜歯部位の痛覚を完全に麻痺させてから処置を開始します。そのため、歯を抜く際の不快な感覚や、骨を削る際の振動などを感じることはあっても、鋭い痛みを感じることは稀です。

もし治療中に痛みを感じることがあれば、我慢せずにすぐに歯科医師や歯科衛生士に伝えてください。麻酔を追加することで、すぐに痛みをコントロールできますのでご安心ください。治療中の痛みを不安に感じる方も多いですが、麻酔がしっかり効いていれば、ほとんどの場合問題なく抜歯を終えることができます。

Q. 抜歯後の食事はどうすればいいですか?

抜歯後の食事は、傷口の保護と治癒を促進するためにいくつかの注意が必要です。抜歯当日は麻酔が効いているため、唇や頬を誤って噛んでしまうリスクがあります。麻酔が完全に切れるまでは食事を控えるようにしてください。

食事が可能になったら、まずは消化しやすく、あまり噛む必要のない柔らかいものから始めるのがおすすめです。具体的には、おかゆ、スープ、ヨーグルト、プリン、ゼリー飲料などが良いでしょう。刺激の強い香辛料が入ったものや、熱すぎるもの、硬いもの、粒状のものは避けてください。また、抜歯した側とは反対側で噛むように工夫すると、傷口への負担を減らせます。数日かけて、痛みや腫れの様子を見ながら、徐々に普段通りの食事に戻していくようにしてください。

Q. どの歯医者さんでも抜歯できますか?

親知らずの抜歯は、その生え方や状況によって難易度が大きく異なります。まっすぐに生えていて、比較的簡単に抜けるようなケースであれば、一般の歯科医院でも対応可能です。しかし、横向きや斜めに生えている親知らず、歯茎や骨の中に完全に埋まっている親知らず、あるいは神経に近い位置にある親知らずなど、難易度の高いケースでは専門的な技術と設備が必要となります。

このような難しい抜歯の場合は、口腔外科を専門とする歯科医師がいるクリニックや、大学病院・総合病院の口腔外科を紹介されるのが一般的です。CTなどの高度な画像診断装置が備わっているか、偶発症への対応体制が整っているかなども、医療機関を選ぶ上での重要なポイントとなります。まずはかかりつけの歯科医院に相談し、適切な医療機関の紹介を受けることをおすすめします。

まとめ:デメリットを正しく理解し、専門医に相談しよう

親知らずの抜歯は、痛みや腫れ、神経麻痺やドライソケットといった合併症のリスクがあることをこれまでの解説でご理解いただけたかと思います。特に、下の親知らずや骨に埋まった親知らずの抜歯では、術後の回復に時間がかかったり、日常生活に影響が出たりする可能性も考慮する必要があります。しかし、一方で、虫歯や歯周病、歯並びの悪化を防ぎ、口臭の改善や、繰り返す痛みから解放されるといった、長期的な口腔内の健康と生活の質の向上につながる大きなメリットも存在します。

最も重要なのは、ご自身の親知らずの状態(生え方や周りの歯への影響など)を正確に把握し、デメリットとメリットを比較検討して、納得のいく治療選択をすることです。そのためには、通常のレントゲンだけでは見えにくい神経と親知らずの位置関係などを、歯科用CTを用いた精密検査で確認することが非常に有効です。精密検査の結果に基づき、歯科医師や口腔外科医から具体的な抜歯方法、予想されるリスク、回復期間、費用について詳しい説明を受け、不安な点をすべて解消しておくことが大切です。

この記事で得た知識を参考に、もし親知らずについて少しでも不安や疑問があるようでしたら、ぜひ勇気を出して歯科医院に相談してみてください。あなたの状況に合わせた最適な治療計画を立ててもらうことで、「抜歯後の生活がどうなるのだろう」という漠然とした恐怖が、「予測可能で安心できる選択」へと変わるはずです。

 

監修者

菊池 雄一 | Kikuchi Yuichi

神奈川歯科大学卒業後、中沢歯科医院 訪問歯科治療担当
医療法人社団葵実会青葉歯科医院 分院長就任
シンタニ銀座歯科口腔外科クリニック 親知らず口腔外科担当
医療法人社団和晃会クリーン歯科 分院長就任
医療法人社団横浜駅前歯科矯正歯科 矯正口腔外科担当
医療法人社団希翔会日比谷通りスクエア歯科
おおもり北口歯科 開業
昭和大学口腔外科退局後は、昭和大学歯学部学生口腔外科実習指導担当経験 また、都内、神奈川県内の各歯科医院にて出張手術担当。
 

【所属】
日本口腔外科学会
ICOI国際インプラント学会
日本口腔インプラント学会
顎顔面インプラント学会
顎咬合学会
スポーツ歯科学会
アメリカ心臓協会AHA
・スタディーグループFTP主宰

【略歴】
神奈川歯科大学 卒業
・中沢歯科医院 訪問歯科治療担当
医療法人社団葵実会青葉歯科医院 分院長就任
シンタニ銀座歯科口腔外科クリニック 親知らず口腔外科担当
医療法人社団和晃会クリーン歯科 分院長就任
医療法人社団横浜駅前歯科矯正歯科 矯正口腔外科担当
医療法人社団希翔会日比谷通りスクエア歯科

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